東京高等裁判所 昭和45年(ネ)2377号 判決
一、東京地方裁判所八王子支部は、被控訴人を債権者、控訴人を債務者とする同裁判所昭和四〇年(ヨ)第二七四号不動産仮処分申請事件について、昭和四〇年七月五日原判決添付別紙目録記載の土地について、控訴人に譲渡その他一切の処分を禁ずる旨の仮処分決定をしたところ、右仮処分の本案である同裁判所昭和四〇年(ワ)第六四二号所有権確認等請求事件について同裁判所は、昭和四五年三月二〇日控訴人に対する被控訴人の請求を棄却する旨の判決(以下第一審判決という)をしたことは、当事者間に争いがなく、右判決に対しては被控訴人から控訴がなされ、なお確定にいたらないことは弁論の全趣旨から明らかである。
二、本案裁判所において本案につき請求棄却の判決がなされたというのみで、まだ確定にいたらない場合、このこと自体が直ちに仮処分命令の取消事由となるものではないけれども、仮処分裁判所が一応の疎明によつて被保全権利があるものと判断して仮処分命令を出した後に、必要的口頭弁論に基づき、かつ証拠によつて事実認定がなされ、その上で法律判断がなされる本案の審理は仮処分手続よりも慎重かつ厳格な手続を経た上でなされるものと解されるから、かかる本案判決で、被保全権利たる実体上の請求権がないと判断されたことは、いちおう仮処分命令後にこれをくつがえすべきおそれの多分にある事情が生じたものといえることは否定できないであろう。しかし当該事件について仮処分命令を取消すべき事情の変更があるかどうかは、もとより右取消事件を担当する裁判所が本案の帰趨とにらみ合わせながら自己の独自の判断によつて認定すべきところであるから、当該第一審判決が果して仮処分命令をゆるがす程のものであるかどうか、換言すれば右本案判決が上級審において取消されるおそれがあるかどうかを判断し、もしかかるおそれがないとはいえないものと判断した場合には、たとえ本案の裁判所が請求棄却の判決をした場合であつても、それだけでは事情変更による仮処分命令の取消を認めるべきではない。
三、当裁判所は、右観点からして本件を見るとき右第一審判決は必ずしも上級審で取消されるおそれが全くないとはいえず、従つて今直ちに本件につき事情変更があつたものとして本件仮処分命令を取消すのは相当でないと判断するものであつて、その理由は次のとおり付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、その説示を引用する(原判決四枚目裏末行から同七枚目表二行目まで)。
当審における控訴人代表者尋問の結果によつてさえも、原判決添付別紙目録記載の土地を含む東京都町田市鶴間字一七号一七三〇番の一畑二二八七平方メートルの買主は、形式上は株式会社白山製作所になつてはいるが、白山稔と控訴人とがその実質上の買主であつて、控訴人は最初に支払つた売買代金の内金二〇〇万円のうち金六〇万円を自ら支出したというのであるから、このことからしても控訴人は被控訴人と株式会社白山製作所間の右土地の売買契約については、きわめて強い関心を抱いていたのみでなく、その契約内容も了知していたものというべく、従つて右売買契約における代金完済までは所有権はなお売主たる被控訴人にあるものとされていること(このことは本案判決も認めるところで、この点は上訴審においても変ることはないものと解されること右引用の原判決の説示するとおりである)白山製作所に所有権移転登記がなされた事情その他について控訴人を善意の第三者であると認定した本案の第一審判決の判断は、上級審においてそのまま維持されるとは必ずしも即断できないものといわなければならない。その他当審にあらわれたすべての証拠をもつてしても、右引用の原判決の認定を覆すに足りない。
(浅沼 岡本 田畑)